漫才には、「ツカミ」と呼ばれるものがあります。
2023年M-1グランプリでの令和ロマンの1本目のネタを例にとってみましょう。
ふたり「どうも。よろしくお願いします!」
くるま「松井ケムリさんという方。髭とモミアゲがつながっております。なんでつなげてるんだろうって疑問がわきますよね?これ簡単でして、毛で自分の顔をぐるりと囲うことによって、顔の内側を日本から独立させようとしてるんですよ」
ケムリ「そんなわけねえだろ!」
のように、登場して早々に一ボケ入れて笑いをとることは「ツカミ」と呼ばれています。実際に、23年のM-1でトップバッターとなった令和ロマンはこのツカミでしっかりと笑いをとり、その後つづく「少女漫画」ネタ本題でも会場を大いに沸かしていました。そしてご存じの通り1回目の優勝を果たしています。
この「ツカミ」。入れた方が良いのか入れない方が良いのかということで悩んでいる方もいるでしょう。勿論正解はありませんし、どっちだってOKです。今回は、ツカミの効果やメリットについて考えてみたいと思います。
改めて上記の令和ロマンの「少女漫画」のネタを例にとってみると、「ツカミ」とネタの本題とはまったく内容的なつながりが無いことが分かります。だからこその「ツカミ」とも言えるのですが、「場を温める」「お客さんに自分たちの雰囲気を知ってもらう」という意味で効果を発揮していると考えられます。
以前の記事で、「どんなキャラクターとして自分たちが見られたいかを意識することの重要性」について考えました。ツカミは、キャラや雰囲気を知ってもらうという意味で良い役割を発揮しているといえるのです。24年のM-1こそ誰もが知っている令和ロマンでしたが、23年の決勝初出場時は初見という方もそれなりにいたはずです。そのようなお客さんに自分たちのことを知ってもらうために、このツカミは働いていました。
くるまさんのボケ自体が面白いのは勿論ですが、このツカミの中に以下のような印象が凝縮されていると私は考えています。
①くるまさんが理論的なボケをするという印象
②突拍子もないボケもテキパキと的確にツッコむケムリさんの印象
③くるまさんが主導している感じのコンビ間パワーバランス
ネタの本題とは直接的な関係がなくとも、「自分たちはこんな感じのタイプの漫才師ですよ」というのが詰め込まれた「ツカミ」のやり取りになっているのです。だからこそ、このツカミでお客さんは笑うだけでなく、何となく令和ロマンの人となりを知ることができてその後の漫才が見やすくなっている効果があるのです。
ですので、笑いをとって場を温めるというのがツカミの第一義としてあると言えるでしょうが、場合によってはそれ以上に「コンビの雰囲気を知ってもらう」という効果があるのがツカミなのです。
とはいえ闇雲にツカミを入れればよいというものではありません。まずはウケないと空気が重くなってしまい、最悪ネタが終わるまでツカミの失敗を挽回できないという悲劇が起こってしまうリスクがあります。出来るだけ避けたいので、あまり自信がないツカミの場合は見送ってすぐに本題に入ってしまうのも手です。
また、前述の通り「コンビの人となりやキャラ、印象などを感じてもらう」という狙いにそぐわないツカミも、その後のネタとの相乗効果どころかマイナスに働いてしまう懸念があります。
例えば、2020年M-1グランプリで決勝進出した「東京ホテイソン」は、たけるさんの「いーや〇〇!!!」という特徴的なツッコミが人気のコンビです。M-1でブレイクして数多くの番組などで活躍していますが、TV番組のロケなどでも「いーや〇〇!!!」のツッコミを連発しているのを見ることがあります。
もし、東京ホテイソンが漫才のツカミを入れるとして、ウリである「いーや〇〇!!!」を使わずに、オーソドックスなツッコミを使用するツカミだったらどうでしょうか?内容的に面白ければ笑いはとれると思いますが、彼らのネタの一番のインパクトは、一発目のボケの後に力強く繰り出される「いーや〇〇!!!」のはず。わざわざツカミで全然関係のないパターンのやり取りを入れるメリットが無い気がしませんか?
ですので、以上のようなことも加味し、その後のネタとのつながりや流れなども意識した上で、「ツカミ」を設計できるとベストだと思います。とはいえ、アマチュアでM-1に挑戦される方が難しく考えすぎてしまうのも逆効果です。同じウケないなら、ボケ倒した上でウケない方が良いですよね?やってみたいツカミがあれば、積極的に取り入れていただくのが良いと思います。
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